1928年11月から1930年4月にかけて、南アフリカのケープやナタールを放浪していたカバがいた。ヒューバートと呼ばれたそのカバは、大都市ダーバンにまで入り込み、早朝、自転車や徒歩の通行人を驚かせた。そして、いつも決まって、警官の到着する直前に川の中に姿を消した。
 ヒューバートはその地域の村を次々と訪れ、何十という家・店・学校・教会の戸口や窓から中をのぞき込んだ。線路上で寝ていて列車を止めたこともあった。警笛が鳴っても鐘が鳴っても、人が大声で叫んでも動こうとせず、機関車の前面にある排障器でそっと押しのけたという。ヒューバートは人を傷つけたことは一度もなく、そのうち国の保護を受けるようになり−保護を定めた法律さえできた−国民的英雄のようにあらゆる人に愛された。被害を被ったことのある農場主は別だったが。
 ヒューバートが数知れぬ人々を楽しませていることを知らず、農場を荒らされたことだけを忘れなかった一人の怒れる農夫によって、この名物カバは射殺されてしまった。解剖の結果、このカバが雌だとわかって世間はまた驚いた(リーダーズダイジェスト、1966)。

 アンゴラとコンゴの国境を流れるクワンゴ川で観察された交尾期の雄同士の戦いでは、両者は、5頭の雌を巡って争った。肩まで水に浸かり、巨大な口をいっぱいに開けて、相手にぶつかった。ぶつかり合い、咬み合い、時には蹴りつけ、彼らは叫び、水しぶきを上げすさまじい騒ぎとなった。時々彼らは戦いを中断し、後退し、息をつく…。この間、雌のカバたちは水中ではしゃいでいた。
 ロバート・ブルース・ホワイト(1966)によれば発情期に起こるこうした戦いには8時間も(時々休息しながらだが)続くことがあるという。

 カバは普通は20頭以上の群で生活している。彼らは原則として一つの場所に定住し、そこをテリトリーとしている。また水の中は群共有のテリトリーだが、その周辺の陸地はそれぞれの成獣のなわばりだとされる。その縄張りは川の斜面(水場への入口)からかなり遠く、森林まで続いている。夜になると採食のために、単独、または子連れで陸上をうろつく。しかし地域によっては−ナイル川上流のように水草が豊富な所では−ほとんど川から出ずに、昼も夜も水中の植物を食べている。
 一般にカバは温和で、人が現れたりするとそっと逃げてしまうが、突然思いもかけぬ攻撃をしてくることがある。特に水中でボートに襲いかかることがしばしばある。陸上でもサイのように突進し、進路にあるものをかまわず踏み砕く。サイよりも小回りが利き、機敏に向きを変えることができる。特に子供を守ろうとする雌のカバは危険である(世界動物百科57、1972)。

 野生のカバはほとんど草を食べているので1日の採食量は90〜130kgに及ぶ。授乳中の雌では200kg以上も食べる(小原、1981)。皮下脂肪は90kgに達する(リーダーズダイジェスト)が2トンの体重からすると意外に少ない。熱帯の動物としては最も多い方だが。 青 菜……… 3kg
ジャガイモ… 7kg
ニンジン…… 6kg
キャベツ…… 1kg
乾 草………10kg
オカラ………15kg
フスマ……… 3kg
ペレット……6kg
(大阪市天王寺動物園)

 1952年にアフリカから名古屋の東山動物園にやってきた雄のカバ(重吉)が2001年、推定年齢53歳で死亡した。日本の動物園では最も長く生きたカバだった。1954年にドイツの動物園からやってきた妻の福子も長生きした。97年8月に推定47歳で死んだ。体重が2500kgあったといわれる。

 1999年からいしかわ動物園で飼われている雌のカバ(デカ)は1952年(推定)にアフリカで生まれたので、今年(2005年)53歳になる。日本に来た当初、水槽付きのトラックに乗せられカバヤのキャラメルのキャンペーンのために全国を巡業した。
 体長312cm、肩高130cmで雌としてもやや小柄だが胴回りは370cmもある(2000年2月)。体重はおそらく推定で2500kg(朝日新聞)。

 器用に岩によじ登ったカバ。もっともこの後降りられなくなって冷や汗をかいたのだったが。向こうに見えるのはシロサイ(王子動物園)

 サンディエゴ動物園に飼われている雄のカバ Lucifer(暁の明星)は今年(2005年)1月26日、45歳の誕生日を迎えた。生まれた時は40kgほどだったが今では6000ポンド(2.7t)以上もある。ルー(Lucifer)は毎日7kgの牧草、スコップ4杯の家畜用飼料、5ガロンのバケツ一杯の野菜と果物を食べている。

体重(kg)全長(cm) 備  考
1897 ウガンダにおける淘汰の際の雄の最大(平均1477)
2020 ウガンダにおける淘汰の際の雌の最大(平均1362)
2389−2664 ケニヤ産の雄 Crandall(1964)による。
1812−2347 ケニヤ産の雌 Crandall(1964)による。
432(尾は51) チャド F.Vaugham Kirby による。牙の長さ74cm。
434(尾は23) Samuel Baker による。
約3200 クルーガー国立公園(2004年4月)。農場を何度も荒らしたために射殺された。
4060422(尾は56) ロンドン動物園で飼われていたある太った雄。 Rick and Lydekker(1901)は野生のカバにはこれを凌ぐものが少なくないといっているが、もちろん体重のことではないだろう。

 肉食をするカバ! 1996年7月、アフリカ南部のジンバブエで草食動物であるはずのカバが大型哺乳類を捕食する現場と殺された動物の肉を漁るという二つの実例が記録された。
 日没後、ハイエナの群に追われていたオオカモシカがマスマダム池に飛び込んだ。その時、カバが突然オオカモシカをその大きな口でくわえ、空高く振り上げた…と思ったその瞬間、顎で叩き潰してしまったという。死んだオオカモシカを放したカバは何事もなかったように、再び池の中央にいる仲間のところへ戻っていった。
 それから15分後の午後6時10分、1頭のカバが群から離れて、水に浮いているオオカモシカの死体に近づき始め、鼻で何度か突いた後、いきなりオオカモシカの右前脚を食べだした。それは5分間程続き、そのカバが仲間のところに戻った数分後、今度は雌のカバと2頭の子が同じオオカモシカの死体に近づき、同じように鼻で突き始め、やがてその仲間の数は8〜10頭ぐらいに膨れ上がった。
 カバの群れがオオカモシカから離れ始めたころ、ハイエナの群が別のオオカモシカを捕らえたがこの時にもカバがそこへ割り込み、死骸を食べてしまった。4週間後、アフリカ哺乳類学会のダッドレー博士とそのチームは、ヘワンゲ国立公園内の別の水溜まりで、前回の現象が偶然でなかった証拠を発見する。そこではまたもやカバの群が獣の死体をむさぼっていたのだった。
 カバをこのような異常行動に駆り立てるのは、ここ数年のジンバブエの旱魃が原因ではないかという。カバの腸でも肉を消化することは可能だが普通の状況下では、やはりカバは草食性の動物であることには変わりはない(earthwatch)。※ この事件は koichi さんから知らせていただきました。

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